今年は随分と早い時期から上着が要った秋で。
急な冷え込みはさすがに2,3日で引っ込んだものの、
朝晩はやはりそれなりの気温になったので、
重ね着を早々と意識もしたし、
「この秋はボヘミアンが流行ってたからか、
小物にレザーやフェイクファーが目に付いたけど
そっちもあんまり違和感なかったしな。」
「へいくふぁー?」
ちょみっと専門用語だったので意味が判らなかったらしいセナくんへ、
「偽物の毛皮のことだ。」
どちら様にも遠慮のない
そんな言いようをした金髪小悪魔様だったが、
「本物だと高いからそうはいかねぇが、
合成繊維だとじゃぶじゃぶ洗えっし、
多少乱暴な扱いしても毛足がヘタレねぇしな。」
だから、ちょっとした上着の襟周りや袖回りだけにとか、
靴のアクセントの縁取りにだけとかに使われてんだよと。
「あと、起毛には違いないから上着の裏地に使いもするしよ。」
そこもまた大人びているからか、
事情通な言い回しをするときは、余計な一言をくっつける坊やなものが。
今回は特に皮肉っぽい何かをくっつけるでなし、
淡々とした様子で視線も動かさないままでいる。
というのが、
『二人とも放課後忙しいらしいのは、
先生も何となく知っているけれど。』
授業の課題をなかなか提出しない蛭魔くんと小早川くんだったのへ、
あとちょっとで完成するんだから、放課後居残りで仕上げなさいねと。
図画工作の課題、教室の中での写生のあとちょっとを、
姉崎せんせえの指導の下で、ペタペタ塗り塗り仕上げていたりする。
校門のそばなどには桜が植えられ、
奥まった校舎付近にはハナミズキなどの木立が寄り添う緑も多い学校で。
窓からはそんな木々が色づいている様が望め、
教室の中のあちこちを画題としている生徒たちの絵にも、
少なくはなくそんな秋めいた色づきが添加されているほどで。
「あ、ハムスターくんも描いたのね。」
セナが選んだのは、クラスで世話をしている小さなハムスターの飼育箱。
生徒たちがランドセルを仕舞う棚の上、
小さめの黒板の手前に置かれた、透明樹脂製の箱の中、
可愛らしい毛並みのハムくんが、カサコソ動き回っているのを描いたらしいのだが。
「何で2匹いるんだ?」
「え? あれれ?」
細長く裂いた木くずのクッションで埋まった床の、
右上とそれから、今ちょうど絵筆を動かしている下の方とに、
特徴のある黒っぽい縞模様の毛並みが覗いており。
「あ、いっけない。」
何日か掛けて描いたせいでか、
居場所が動いたハムくんを、それぞれの場所で把握して
そのまま色付けと運んでしまったらしく。
ありゃまあと、自分のしでかした失態に
…焦ったり慌てたりするより先、ぽかんと口を開いてしまうのが、
“もうもう、相変わらず可愛いなぁ、瀬那くんたら。”
実は ご近所づきあいが長い間柄だという姉崎せんせえ。
もう4年生になったというのに、相変わらずいとけなくも可愛い瀬那くんなのへ、
えこひいきはいかんという自身への自制を毎日戒めつつも、
何でこんな可愛いのぉvvと、ついついほおが緩んでしまうの、
今もまた、いかんいかんと内心での葛藤に大忙しだったりし。
「よし、出来たっと。」
そうこうしておれば、
そんなセナくんと並んでそちらも絵筆を動かしていた金髪の坊やが
筆洗いへチャポンと平筆を落とし込む。
細かい作業が得意そうに見えて、
絵画なぞでは案外と大胆な構図も披露する坊やであり。
そちらこそ、彼の本当の伸び伸びした内面の表れなのか、
それとも…幼い子供らの中、
あまりに突出するのは大人たちの目を引いてよろしくないと思うのか。
“こんな考え方をして向かい合うこと自体、いけないことなんだろうけれど。”
入学したばかりのころから既に、
英語に堪能、合理的な論も展開でき、
才能ある大人の知り合いも多くてというプロフィールがその筋から取り沙汰されて。
これは伸ばしようによってはかなりの才が望めるかもと、
内密にではあれ、英才教育対象に認定されかかったほどの逸材でもあって。
そんな蛭魔くんともお付き合いの長い姉崎せんせえとしては、
そちらへも“特別扱いはダメダメ”という姿勢をしっかと保ってきた気丈な先生なのであり。
ただ
出来た出来たと上機嫌、
パレットや絵筆を外の洗い場まで洗いに行こうと、
席から立ち上がりかかった妖一くんなのを見送りかかり、
その流れで視線が机の上の作品へと落ちたものの、
「…蛭魔くん、これって何かな?」
彼もまた、後ろ黒板周辺を構図に取り入れて、
何の変哲もない一角を描いたらしかったのだけれども。
その黒板に、先々週あたりの行事への告知が
色とりどりのチョークで書かれていたのも写されてあり。
運動会、がんばりましょうねという楷書の文字と、
何だかよく判らない丸々した存在が、
いくつか描かれているのがそのまま書き写されていて。
それを指して問うた先生だったのへ、
立ち上がった位置からそのまま同じように見下ろした小悪魔坊や、
ああ…と何を訊かれているのか遅れて気がつきましたという間合いを挟んでから、
「俺にも判んねぇなぁ。
描いた本人がそんなして訊くようじゃあ。」
「な…っ!」
描いてあったのそのまま模写しただけだといいたい彼らしく、そして
「でもね、せんせえ、
これって何だろねってゆーのは、みんなもクイズにしてたんだよ?」
「ううう。/////////」
傍らから、瀬那くんからまで指摘された、謎の丸々した何かというのは、
もうお判りですねの、
姉崎せんせえご本人が告知の横に描き足したイラストもどきであったらしく。
「授業中の板書は説明しながらだから、
りんごを買いに来たカゴだなとか、
池の周りに植わった木だなとかも判っけど。」
いきなり“完成した”のを見せられると、
特に他意はないまま、何だろ何だろって
素直に好奇心を掻きたてられてる児童の皆様であるらしく。
「こ、これは
頑張れ頑張れって応援している熊やウサギたちの絵だったんです。」
「なぁんだ、そっか。」
ただ納得したとは思い難い、にやにやした顔のまま、
パレットを洗いに出てってしまった小悪魔さんだったれど、
“あれれぇ?”
だったらヒル魔くん、大正解じゃないのと。
何だろ何だろと皆で小首を傾げてた折、
今せんせえが言ったのと同じ答えを言い当ててたらしいのにねぇなんて、
ひょこりと小首を傾げ直した瀬那くんだったらしいです。
〜Fine〜 15.11.06
*芸術の秋のお話を一席。(どこがだ・笑)
へべれけな絵を描くキャラってのも結構いますよね。
ルフィもそうですし、うしおととらの潮くんもだし、
そうそう、まもりさんもじゃなかったっけと、
不意に思い出してしまった秋でした。(おいおい)
めーるふぉーむvv
or *

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